地銀再編に思うこと

 総理大臣が地方銀行の数が多すぎるということを言い出したのが
契機なのか、このところ対応へ向けた動きが活発化している。
 総理大臣が、なぜこのようなことを言い出したのかは知らないが、
金融関係を専門としていたわけではないので、おそらくブレーンと
される人間の受け売りに近いのではないかと思う。

 最近の動きを見て気になるのは、政府、日銀、学者などの発言や
動きはあるが、肝心の当事者である金融機関サイドからの発言が
少ないことにある。
 前から言っているが、政府や日銀は、自分たちに都合のいいこと
しか言わない。訊かれれば答えるが、その場合でも適当に受け流す
ということも多いと感じている。学者も、実務をしているわけでは
ないので、頭の中で考えたことや自分の理論構成に合った視点しか
ないことが多い。


 確かに、昔のように金融機関への資金需要が大きかった時代では
ないし、仕事のやり方に問題がないとは言わないが、現在の窮状の
大きな要因は、政府・日銀が採って来た異常といっていい金融緩和
措置と言っていいと思うのだが、そういったことに言及する人は、
ほとんど見られない。
 日銀の異次元緩和は、デフレ対策として短期的な措置として出発
したが、ある意味ルビコン川を渡るような政策で、出口戦略を持た
ないままに、走り続けてきた。そこへ、コロナ禍が加わって、ます
ます出口が見えないような状況になっている。


 元々過大な国債発行とそれを支える日銀の実質引き受けと低金利
操作が、今後も続くとすれば、金融機関の経営が苦しくなるのは
目に見えていると思う。
 一般の人は、銀行は預金を預かって、貸出を行うことで経営して
いると思っているだろうが、地方銀行を含めて多くの金融機関は、
貸出以外に債券などの有価証券投資や海外への投資なども行って、
収益を稼いできていた。

 メガバンクのような運用手段の多様化やリスク管理態勢ができて
いない地方銀行は、国債を含めた有価証券の運用は重要な経営の柱
だったのだが、政府・日銀の政策により国内の債券市場は、死んで
しまっただけでなく、長短の金利差で収益を得ている金融機関の
利ざやは、長期金利の低下で急速に薄くなってしまっているため、
例え経営統合したとしても、経営は容易でないと思う。


 政府・日銀は現状の低金利政策を続けないと、財政の負担が大きく
増税が避けられなくなるため、期限を定めることなく、もしくは
期限を定めることができずに続けていくのではないかと思われるが、
これを阻止するなり改善するような人間は現れない。
 

 地方銀行の危機の本質は、日本の金融制度なり財政問題であるの
だが、その事実に気づいて警鐘を鳴らす人がいないのは憂うべきこと
ではないだろうか。
 地方銀行だけのように思っている人も多いかもしれないが、同じ
ような運用構造は郵貯銀行ももっているし、今まで無料で提供して
もらっていた通帳発行やATMの手数料なども、どんどん有料化に進ん
で行くことになるため、利用者の負担も増えることになる。

 

 これからは、単なる地方銀行の再編程度に考えずに、全体的な動き
を見ていく必要があると思う。