日銀の政策変更に思う

 

 日本銀行が、長期金利のコントロール目標とする金利
変動幅を0.25%から0.5%に拡大した結果、為替は円高に、
株価や債券価格は暴落した。
 以前より日銀OBの経済評論家からは、変動幅の拡大につ
いて提言があったので、別に驚きはしないが、タイミング
については、いろいろな意見が出ている。
 また、総裁の説明は、これまで言っていたのと違い、利
上げではないとか、金融緩和という方針に変わりないとい
う、あまり納得感のない説明になっている。


 この件についての評論は、見方の違いがあったりするし、
そもそも金融制度そのものを理解していないような記者が
意見を書いていたりするので、何が本当なのかよくわから
ない面もある。
 実際のところ、総裁の説明以前に、日銀内部でどのよう
な検討があったのかということは分からないし、本音の部
分は、総裁や関係者の口からは今までも話されることはな
かったので、今後も総裁退任までは分からずじまいになる
のではなかろうか。


 日本銀行における金融調節について、知っている人なら
短期金利の上げ下げと資金量の調節で行われてきたことが
主だということをわかっていると思う。
 短期と長期の違いは、期間1年を超えるものが長期で、
それ未満は短期というのだが、金融緩和というのは、この
短期金利を低めに誘導し、資金を潤沢に供給するというこ
となので、そういう意味では緩和は継続されている。
 一方で、長期金利は主として国債金利を指標として、
市場の需給において決まるというのが、一般的なルールで
これはFRBを見ても分かるように、長期金利を引き上げてい
るわけではない。

 かつては、日銀は長期金利のコントロールはできない、
という風に思われていた。
 長期金利をコントロールするためには、今のように無制
限に国債を買わなければいけないのだが、それをするとい
うことは、需給を基本とする債券市場を壊すことになるた
め、できないかやってはいけないというコンセンサスが、
あったということだと思う。

 
 異次元緩和として、鳴り物入りで打ち出した金融緩和だ
が、それほど効果がないため、また、政府の国債発行が巨
額になるにつれ、長期金利を低めに抑える必要が出てきた
ということだと思う。
 日銀は、国債の発行については政府と国会が決めること
なので、そちらに聞いてくれと言い、政府は金利は日銀が
決めることなので、そちらに聞いてくれと言って、互いに
批判の矛先をかわしてきているのだが、実際のところは暗
黙の了解があると見た方がいいだろう。


 現在のイールドカーブコントロール(YCC)は、国債
を中心に債券の年限に応じて金利を低く抑えることを目的
としている。
 あくまで、低金利により経済が活性化するという建前で
運用してきているのだが、実際のところ最大の恩恵を受け
ているのは、多額の国債を発行している政府になる。
 今までの0.25%という金利が、必要十分という根拠は特
に示されていないので、それが0.5%になったとしても、
アメリカに比べれば十分低金利と言えないわけではない。

 ただ、問題なのは、債券全体のイールドカーブ金利
の方にシフトしているにもかかわらず、日銀が指標として
いる10年ものの国債が、0.25%で押さえつけられていた
ため、いびつなカーブになっていたというところがある。
 今回の変動幅拡大で、そういった歪みは修正されるのだ
が、今後また歪みが生じないという保証はない。


 
 日銀が0.25%で大量に国債を買ったこともあり、日銀の
保有国債が全発行量の5割を超えてしまっているというの
を問題視する人もいる。
 確かに国債残高全体が、GDPの2倍を超えるという巨額
な中で、さらに5割を超えるというのは異常に違いない。
 国債残高が膨らんでも、政府が潰れるわけではないし、
デフォルトになるわけでもないのでいいではないかという
輩もいるのだが、金利を人為的に低水準にすることがどこ
までもできるのは、日銀が今のような政策を取っていれば
こそで、実質的な日銀引き受け状態になっていることに関
して問題ないと言い続けるのもどうなのだろうか。

 日銀の残高が5割を超えたというだけでなく、特定の回
号では、実際の発行残高以上の債券を日銀が保有するとい
う事態も発生しているし、新発債の入札当日に、日銀がオ
ペで買い入れをするということまで発生している。
 特に後者の場合、形式的には第三者の所有している国債
を買取しているとは言え、当日に移転するというのは実質
引き受けしていると言われても仕方ないと思う。
 こういった状況が、今回の変動幅の拡大に至った理由で
はないかと私は思っている。


 いずれにしても、防衛費の議論にも見られるように、財
源が不足するなら国債発行すればいいのではないかという
議論は、余りに無責任過ぎるのではないだろうか。
 おそらく、国債の残高を気にしない政治家は、いくらで
も発行するので、国債を償還することはできないだろう。
 その結果は、単なる借り換えではなく、永久国債として
債務を固定化しようとするか、法的制約を取り払って、日
銀の直接引き受けをするようになるのではないだろうか。


 国債の残高は、過去の政府の支出の結果なのだが、その
支出が効率的かつ不正なく行われたかという点に関しては
心もとない。
 国の借金は個人とは違うのだが、税金であれ国債であれ、
適正な支出が行われていなければ、支出が際限なく膨らん
でいき、不正や非効率があっても誰も責任を取らないとい
う結果になるのではないだろうか。
 市場が機能していれば、金利が上昇して発行に制約がか
かるのだが、そうならないのは、今の日銀が加担している
からと言っても過言ではないと思う。
 安全保障だけでなく、防衛費を契機に国債に関する真剣
な議論をするべき時期に来ているのではないだろうか。