新しい日銀総裁について思う

 

 前にブログを更新してから1か月近くになってしまった。2月
は確定申告があるため、いつも時間に追われるのだが、今年は例年
と違い2人分の確定申告を作成する必要があり、収入も例年と違う
パターンのため、時間がかかってしまった。
 そんなこんなでブログにかかる余裕がなかったのだが、何とか
2月中にやり終えたので、ブログにも手をつけることができるよう
になった。


 今回のテーマは、新しい日銀総裁について感じることだ。大方
の予想を裏切って、学者出身の方が日銀総裁候補となったのだが、
海外では学者出身の総裁が多くいるので、それほど意外という感
はしない。
 むしろ、重要なのは自分の言葉で、論理的に説明ができる人
かどうかだと思う。今の黒田総裁の会見の説明を聞いていても、
納得感がないのだが、学者だけに論理的な説明は得意なように
感じられる。
 但し、これまでの異次元緩和と称して無理な金融政策をとって
きた代償は大きいので、今後の金融政策のかじ取りが難しいと
いうのは、識者の一致した見解だろう。


 世界的なインフレが進み、アメリカのFRB短期金利を大幅に
引き上げて対応しているが、それだけでインフレが十分に抑制
できるかどうかは定かでない。

 インフレの原因は、需要の回復、エネルギー価格の上昇、賃金
の上昇など多くの要素があり、金利引き上げにより、金利の影響
する投資案件にはブレーキがかかっても、実需のある物価は、直
接的な影響を受けないため、効果が弱い。
 もっとも、昔ならローンのウェイトが高かった家計が、支出の
削減をするということで、需要が抑えられたかもしれないものの、
現状は、コロナ禍での現金給付などにより、手元流動性が高いた
め、直ちに効果が出てくるという感じではないと思われる。


 インフレに対する懸念が、需要の抑制につながれば、物価の
沈静化になるとは思われるが、エネルギーや食糧価格の上昇は
供給要因なので、そこを何とかしなければ、価格の抑制にはなら
ないだろう。
 景気の減速を勘案して、原油価格は低下傾向にあるものの、
絶対的な水準が低いわけではないため、価格上昇への圧力は続く
だろう。
 もう一つの要因である賃金は、コロナ禍を経た雇用構造の変化
が背景にあり、物価上昇に伴い、賃上げ圧力も高くなっていると
みられるので、金利を上げたところで抑制できるわけではない。


 デフレに比べてインフレの方が、金融引き締めにより、経済活
動を抑えられるので、金融政策の効果が出やすいとは言える。
 ただ、どれだけ金利を引き上げれば十分なのかは、論理的に説
明できないので、引き上げながら考えるといったことになる。
 その結果、複合的な要因がいくつも解消すると、今度はオーバ
ーキルになることもありうる。


 私は、金融政策でインフレやデフレを解消できるという考え方
には疑問があり、特にデフレ対策としての異次元緩和は、完全に
失敗していると思っている。
 景気対策としての金融緩和はあっても、それがデフレ対策にな
るというのは、ある意味政策担当者の思い上がりで、それが可能
なのは、中国のような強権国家だけではないだろうか。
 もっとも、そのような国でも、金融だけで経済がうまく回ると
いう考えはもっていないので、政府による大幅な投資と組み合わ
せているため、日本も財政支出を膨らませて景気刺激をすれば、
うまくいくと考えたのが、アベノミクスだと思う。


 リフレ派の人は、国債を大量発行して、政府が財政支出を膨ら
ませば、需給ギャップが解消されて、デフレが解消されると踏ん
だのだろうが、ことはそれほど単純ではない。
 このロジックのどこに誤りがあるかと言えば、需給ギャップ
既存の経済構造を前提に考えていることと、政府支出に対する効
率性の検証が不十分なため、ダダ漏れになってしまうということ
だと思う。
 さらに、コロナ禍の不適正な支出を含めて、巨額の補正予算
財政運営を行うというイビツな状況も続いているうえ、金融政策
の硬直性から、円安圧力も高くなっている。
 
 
 長く金融緩和を続けてきても、経済の状況がこの程度にしかな
らないため、円安になったと言っても緩和を止めるという選択は
政策当局の選択肢にはない。
 昔から出口戦略があるのか問われてきたのに、回答しなかった
結果が今の状況なので、おそらく今後も今のような状況が続くの
だろう。

 現在の状況は、日銀だけの責任ではないが、アベノミクスを振
りかざしてきた政治家、政府にも責任があるのは間違いない。
 プライマリーバランスの黒字化を言っていたこともあるが、積
極財政派の政治家は、棚上げ・先送りを言っているし、現実問題
として、達成の目途がないというところだろう。


 プライマリーバランスに拘ることは必要ないかもしれないが、
さりとて、膨らむ一方の財政赤字をどのようにしていくかという
考えがないのも問題だと思う。
 政治家にとっては、予算に制約がなく自分たちに都合のよい財
政支出ができれば、こんなにいいことはないのだから、真剣に財
政を考えるということをするはずがない。

 赤字国債を出しても、政府が潰れることはないのだから、いく
らでも発行して、実質的な日銀引き受けをさせればいいと考えて
いる輩も多い。
 そんな考えでデフレが克服できるはずがないのだが、未だに緩
和を続けていれば何とかなる位の考えでしかないように見える。


 客観的に見ても、今の日本は崖っぷちに来ていると思った方が
よいのではないか。
 円安でGDPが増加するため、円安はプラスと言っている人間は、
数字だけで判断し現実を見ていないと思う。
 円安の影響は、経済主体や業種でも異なるし、フローベースと
ストックベースでも違ってくる。
 
 元総理が、日銀総裁はマクロの経済がわかる人がいいと言って
いたが、おおよそ日銀総裁の候補となる人間でマクロの経済数字
がわからない人はいないと思う。
 本当に必要な総裁は、政府ばかりを向いていないで、国民経済
全体にとって何がいいのかがわかる人間だと思うし、政策を自分の
言葉で、国民全体にわかりやすく説明できる人が望まれているのだ。


 そういう意味では、新しい日銀総裁には期待を持てるのだが、
一方で、金融政策は万能ではないということを世間全体に解らせる
ことも必要だと思う。
 金融経済と実物経済は表裏一体なので、実物経済をいかにする
かというビジョンなくしては、絵にかいた餅になってしまう。
 この絵を誰が描けるのかというのが、今現在の日本に課された
課題だと思う。
 光琳風神雷神図の裏に夏秋草図が描かれていたかのように、
表側を描ける人の登場も望まれるところである。