阿武町の誤送金で思うこと

 

 阿武町で発生した誤送金に絡むトラブルを見て思った
ことがいくつかある。

1.誤送金は珍しくないのに、なぜ町を責めるのか

 誤送金はいくらでもあるのだが、今回の場合、町が
本来送金するべき金額と相手を間違ったため、相手が
返金に応じなかったということだと思う。
 通常の場合、返金に応じれば問題はなく、せいぜい
菓子折り程度のお詫びで済んだはずなのだが、今回は
相手が金を返そうとしなかったため、大事になってし
まった。

 間違えたのが悪いのだが、それをフロッピーで振り
込むような前時代的な事務処理をしているかのように
言う人もいる。
 しかし、地方では今でもフロッピーを使って振り込
み処理していることが多い。
 件数が多ければ、紙で処理するのは銀行も困るので
何らかの形でデータをやり取りするしかなく、フロッ
ピーを使っているのだと思う。
 素人には、ファームバンキング的な処理が当たり前
のように思えるかもしれないが、ファームバンキング
でも大量処理するには、それなりのフォーマットが必
要になるので、フロッピーが悪いということではない。
 ファームバンキングでも、元のデータが間違ってい
れば誤振込は発生するのだ。

 今回の場合、間違った原因はフロッピーではなく、
紙で振り込み依頼書を作成して、間違ったデータを持
ち込んだことにあるので、そこは町の事務処理におけ
る確認不足が原因である。

 ただ、人がやることなので、必ず間違いは起きる。
間違いが起きた場合、いかにリカバリーをするかなの
だが、町レベルでは性善説で対応することがあっても
不思議ではないと思う。


2.債権回収は難しいもの

 今回は、誤振込が町で、指定金融機関から行ったも
のなので、それなりに協力が得られた面があると思う
が、これが民間人と民間人の間であったら、そう簡単
にはいかなかったと思う。

 仮に私が、A氏に誤振込をした場合、銀行に組み戻
しを依頼しても、A氏が応諾しなければ、簡単には返
してもらえない。
 さらに、A氏がどこかに送金してしまっても、相手
銀行は送金先の情報を教えてくれないはずなので、A
氏の口座に仮差押えを申し立てしても、そこにお金が
あるという保証はない。
 刑事事件として捜査が入れば別だが、民事事件では
そこまでの強制力はないので、相手の口座を特定する
のも一苦労になる。
 A氏と直接交渉して返金を迫ったとしても、相手が
悪ければ、最終的に訴えて勝ったとしても、お金が帰
ってくるという保証はない。

 債権回収の苦労を知っている人間からすれば、今回
はラッキーという感じがする。
 もっとも、銀行も送金する前に、町から振込依頼書
が持ち込まれた時点で、おかしいと感じるべきだった
のではないかと思うが。

 個人の決済代行業者への振り込み記録が、刑事告発
される前に漏れているようにも思えたので、銀行の守
秘義務は大丈夫なのかとも思った。
 銀行も指定金融機関なので、町には最大限協力する
ということなのだろうが。

 とにかく相手と口座を特定するなり、債権を特定し
ない限り、法的な執行はできないので、一般の人では
そこまでやるのが難しいのだ。


3.誤振込で人生を狂わせてしまうことがあるのだ

 誤振込でも、金額が小さければ、それほど揉めるこ
とはないだろう。
 また、相手もそれに手をつけようという気にはなら
ないかもしれない。
 今回の場合、金額が大きく、また、罪に対する意識
の乏しい若者だったため、大事になり、本人を含めて
多くの人を巻き込んだ不幸な事件になってしまった。

 たかが誤振込なのだが、場合によっては不幸を招く
ということを教訓に、町も内部統制を強化するべきだ
と思う。
 町だけでなく、一般の企業、特に中小企業は人材が
不足しているため、誤振込や不正が起きやすい。
 大きなお金が動くプロセスは、内部統制を見直して
おくべきだと思う。