全数把握見直しとシステム設計

 

 新型コロナウイルスの感染者の全数把握の見直しが、
迷走しているように見える。
 感染者の急増に対して、医療機関等の入力負担が大
きいこともあって、全国知事会が全数把握の見直しを
国に求めたのを受けて、国は各県での裁量による簡略
化を認めたにもかかわらず、見直しをするのは4県に
留まっている。

 これだけ感染者が多くなって、陽性率が高くなって
いる状況で、全数把握がどこまで必要かはあるが、今
の仕組みが、単に感染者の把握に止まらず、感染者の
フォローにリンクしているところに問題がある。
 単に入力負荷の問題だけであれば、入力者を外注す
るなりして、緊急対応することは可能だと思うのだが、
入力を限定するという発想になったのが不思議だった。

 この問題を見ていくと、システム設計をどのように
していくかという考え方の参考になると思ったので、
少し整理してみたい。


1.量とタイミング
  そもそも、今回の新型コロナウイルスの発生当初
 から、厚生労働省のシステム(HER-SYS)への入力
 負荷が問題になっていた。
  そのため、件数の増加に対応して、120項目から7
 項目へ入力を削減したというのだが、それでも件数
 が急増したために、今回の問題が出てきたようだ。

  システムを設計する際に重要なのは、入力件数や
 データ件数等がどれ位の規模になるかということと
 そのデータの入出力のタイミングがどうなるかを考
 えることにある。

  1日100件の処理と1000件の処理では、10倍違う訳
 で、現在のように1日25万件の感染者が出るという
 状況は、当初の設計時点の想定を大きく超えている
 のではないだろうか。
  入力項目の数を10分の1にしても、単純に時間が
 10分の1になるとは限らないので、医療機関での入力
 負担が大きくなってしまったのだと思う。

  件数だけなら、何日か遅れて処理しても問題なさ
 そうな気もするが、実際にはこのデータが、感染者
 のフォローにつながっているため、できるだけ早い
 タイミングで入力する必要があり、負荷が大きくな
 っている。

  こういう状況では、おそらくプロセス全体を見直
 さないと、十分な処理ができないと思われ、その一
 つとして全数把握の見直しがあるのだろうが、そう
 なると、入力しない分への対応を別途考える必要が
 出てきているというのが、今の状況だと思う。


2.業務フローとデータフロー
  ということで、システム設計をする場合、全体の
 業務フローとその中でのシステム処理におけるデータ
 フローを把握する必要がある。
  
  今回の場合、スタートをどこに取るかという問題
 があるのだが、おそらく医療機関なり保健所を初期
 の入力として置いているのだと思う。
  実際には、感染者の検出は、医療機関と保健所に
 限定されないのだが、システムへの入力を前提に置
 いてシステム設計しているのだと思う。

  これが、感染者もしくは、感染疑い者による入力
 を仮定していれば、システムの仕組みも大きく変っ
 ていくし、それぞれのデータのやり取りも変わって
 いくだろう。

  また、医療機関ではHER-SYSへの入力と共に、一部
 の重複データを電子カルテにも入力するため、一層
 ストレスが高くなっているものと思われる。


3.ユニークデータ
  システムを構築する上でキーとなる項目は、ユニ
 ークでないといけない。

  現状は、マイナンバーカードによる保険証のよう
 に、単一の識別コードがないため、重複入力作業が
 発生するし、ワクチン接種台帳も自治体ごとに管理
 されているため、個人の識別と連携が不十分になっ
 ている。

  マイナンバーカードが全員に行き渡るとは考えず
 らいので、それとは関係なく感染者の識別のための
 コードを作り、それをワクチン接種のタイミングで、
 住所氏名を含めQRコードに印刷して配布しておけ
 ば、入力作業の効率化が図れたのではないだろうか。


4.デジタルトランスフォーメーション
  世の中では、デジタル化とかDXとか流行りにな
 っているが、システム設計はプログラミングスキル
 のようなものではなく、分析とロジックで出来てい
 る。
  さらに、空想というか構成力も求められるので、
 大胆な発想を持つ必要があると思う。

  直感的にわかるようなものは、都度簡単な開発を
 積み上げていけばいいのだが、組織を超えて導入が
 必要なものは、大きな構想からブレークダウンして
 いかないとうまくいかないと思う。
  最初のアイデアなり分析が中途半端だと、結果的
 にいいものはできない。
 
  デジタル化は、目的でも手段でもなく、あくまで
 全体の構想の中の一部だと心得ておく必要がある。

  同様に、HER-SYSの全数把握も、目的ではなく、
 また、感染対策の手段として常に有効な訳ではない。
  たまたま、管理システムを組み込んでしまった為
 に迷走しているのだが、うまく作ればいいDXにな
 ったのではないだろうか。


 長くなったのでこれ位にしておくが、システム構築
には、これ以外にもバックアップやセキュリティ面の
考慮が必要で、この部分は前提要件を明確にし、設計
当初から組み込んでいく必要がある。
 個人情報を扱うシステムでは、セキュリティ対策が
必須なのは言うまでもない。