需要と供給

 このコロナウイルス騒ぎで、需要と供給について示唆に富む
ような事象が随分見られた。
 一つは、マスク。2月から5月までは、なかなか手に入らない
という話で、政府が布マスクを各世帯2枚配布するという決定
までした。6月になっても全世帯に配布することはできず、一方
市中にはある程度の金を出せば手に入るようになって、政府の
マスクが届かなくても、不満が出るようなことはなく、むしろ
この政策にどの程度意味があったのかという疑問が残った。

 そもそも、マスクの需要が誰にどの位あって、どのタイミングで
供給するのが適切なのかという説明は聞いたことがないので、
現在の状況が想定どおりだったのかわからないが、マスクの値上
がりを抑える効果があったという説明も納得感はない。

 

 2つめは、トイレットペーパーやティッシュペーパーの品不足。
ある意味では、デマのようなものだったが、人間の心理というのは
面白いもので、皆が買いに殺到すると、店頭から品物が消え、
さらに不安心理を煽るようになった。国内生産も在庫も十分ある
のに、超過需要が発生したため、デリバリーが追い付かないという
状況で、超過需要をいかにコントロールするか、配給や割り当て制
も考える必要があるのではないかと思った。

 

 3つめは、医療機関のベッド数だ。指定感染症は、入院させると
いう原則で、無症状の感染者まで入院させたため、ベッド数が不足
し、自宅待機が大幅に増加した県があった。後で、ホテルに隔離する
措置を取ったため、ベッド不足は緩和されたが、これは需要の中身を
吟味して、適切な供給態勢を当初から構築できなかった問題である。

   4つめは、特別給付金。当初は、生活に困窮する世帯を中心にという
話であったのが、需要とは関係なく全世帯に給付することになった。
迅速に給付、つまり供給することができるというのが理由だったが、
今になっても給付されない人が多く、これから申請書を送るという
人もかなりいて、これは供給技術が未熟にもかかわらず、供給できる
という判断をしたのか、事務処理技術の遅れがあるといっていいと
思う。

 

 需要を正確に予測するのは難しいということはあるが、マスクの
需要有無にかかわらず、全員に配給するという行為は、税金の無駄遣い
と言われても仕方あるまい。

 価格が、需要と供給で決まるものという原則があるとして、布マスク
の需要が高ければ転売されるケースが出てきてもおかしくないが、現実
には、人気がないので寄付するという人が多く出ている。そうなると
これにかけた経費は適切だったのだろうかということになる。

 

 本来、需要と供給で決まるのが市場原理だが、現実には政府・日銀は
市場に介入して、金利や株価の下支えを行っている。政策としての評価
は、メリットとデメリットを比較して決めたり、原則的なポリシーを
示して行うべきものだが、メリットだけを強調したり、言い訳だけを
続けている日銀総裁の姿や財政赤字を先送りしたり、言葉を変えて言い
繕ってきている総理大臣の姿を見ていると、本当にこの国はダメになって
しまったなと思うのである。