ワクチン狂騒曲

 

 最近のワクチン接種にかかる状況を見ていると、まるで
ワクチン狂騒曲とでも言えるように見える。
 高齢者へのワクチン接種を7月末までに終えるとか、
裏付けもなく1日100万件の接種をするとか、ワクチン
の承認がされていないにもかかわらず、自衛隊による大規
模接種を自治体の頭越しに、東京、大阪で実施するとか、
政府が言いだしたり、各地でワクチン接種の予約に多くの
人が殺到して混乱したりというのを見聞きすると、どうし
ようもないなと思う。


 確かに、今の政府の対策は、お願いベースで実効性が小
さいものばかりなので、それに比べれば遥かに強力な対策
ではあるが、だからと言って、政府が単独でワクチン接種
をするのができるのは、自衛隊まで動員して、せいぜい日
に1万5千件程度だとすれば、大部分は各県市町村が主体
になって実施するのであるから、現場でどのような対応が
可能なのか見極めたうえで、現場の支援を行うのが本来の
やり方だと思う。
 自衛隊主体の大規模接種は、政府のやっている感を出し
たいがためにしか見えない。
 本来、政府がやるとすれば、高齢者の接種は各自治体に
まかせて、接種が遅れている医療関係者やエッセンシャル
ワーカーと呼ばれる人々への優先接種をすべきだと思う。
 

 高齢者への接種を優先するのは、感染した場合の重症化
率が高いということなのだろうが、感染リスクという観点
からは、それらの人々のリスクが高いというわけではない。
 感染リスクから言えば、実際にコロナ患者を扱う医療関
係者やコロナの疑いのある人を救急搬送する救急隊員やタ
クシーなどが高いであろうし、実際に感染者が多く発生し
ている空港など海外からの渡航者に接する部署や隔離をす
るホテルの人間などがある。
 また、クラスタにより高齢者の感染が危惧されるので、
高齢者施設の従事者も、優先的にワクチン接種の対象とす
るべきではないだろうか。


 ワクチン接種を加速化させたいということはわかるが、
一方で、ワクチンが大量に余るほどある訳ではなく、順次
供給されるということであれば、我勝ちに接種を急がせる
ような行動を招くべきではなく、一定の順番を決めてやれ
ばいいだけのことでしかない。
 日本の感染状況は、欧米に比べてそれほど深刻な状況で
はない一方で、医療態勢が弱いため、一部の医療機関に大
きな負担をかけている状況を踏まえれば、政府としては国
民が冷静に対応するよう呼びかけるべきであるし、全体の
接種効率を上げるための施策をもっと考えるべきだろう。

 医師、看護師だけでなく歯科医師がワクチン接種できる
ようにしたようだが、実際に1日100万件を行うには、
どれだけの人員体制と場所が必要なのかを試算して、それ
を実現できるような法整備を含めた手当をするのが、政府
の役割ではないか。
 また、東京オリンピックについても実施するという意向
であれば、具体的に必要な医療態勢やワクチン接種につい
てケース分けした数字を試算して公表すべきだと思う。


 現状は、感染拡大が収束した訳でもなく、ワクチンの接
種が完了した訳でもなく、高齢者への接種が完了したとし
ても、残りの人の感染リスクがなくなる訳でもない。
 政府には、希望する全ての人へのワクチン接種が完了す
るまでの大きなスケジュールを描き、感染対策とワクチン
接種対応を明示してもらいたいものだと思っている。